2013年7月19日金曜日

きなせ家さんとの仕事について



きなせ家さんで製造している糸紐を巻いて、「きなせ家の糸玉」という名前で販売をさせてもらっています。

きなせ家さんは五泉(ごせん)市という町にある、福祉施設です。

新潟市の私達の事務所から車で約40分。
阿賀野川(あがのがわ)という川の土手の横の道を走って向かいます。

今日は空の色も、緑の色も、空気も、暑かったけどくっきりとしていて気持ちよかった。




五泉市はニット製造で有名な土地。

きなせ家さんではニット工場から出る残った糸を引き取り、再生してマットを編み自主製品として販売しています。

koroとしては、配色やサイズを指定してマットを編んでもらうという企画を提案させていただいたこともありましたが、話がなかなかうまくまとまらない。

きなせ家さんにとっても、「めんどくさいこという人たちがきたなぁ・・・」と随分困らせたこともたびたび。(今でも少し)

そう、頼まれてもいないのに私達から尋ねて行って「こんなことできますか?」「あんなことできますか?」なんてやんややんや言われたら、なんか嫌になる。

って言っても、お金の絡む話なんですけどね。
工賃向上につながる話なんですけどね。
まず私達が「信頼」「信用」されていなかった。ていうのが何よりだとは思うけれど、
「企画を持ち込んで商品にしていく」というのはなかなか難しかった。(今でも難しい)


そこで、紐はたくさん製造できるということ、計って巻く仕事は多くの人が携われる仕事、ということを踏まえて、糸紐を素材として販売することを提案し、今に至る訳です。

きなせ家さんとのお付き合いは、2年半程。koroをスタートしたときからお世話になっています。これまでに色々と意見や見解、思いの違いなど、多々ありまして、話し合いの場を設けていただいたりしたこともありました。けど、それはあたりまえのこと。
その都度話し合って、変わらず定期的に仕入れさせていただいています。



専用の機械を使って、リリアン状に編まれて紐になります。
大きな玉からいいと思う物を数種類選ばせていただいて、
それを、利用者の方が指定のグラムに計って丸めるという作業をしてくれています。


途中で糸が飛び出ていないか、検品しながらの作業。
皆さん、黙々と取り組んでくれています。

丸めた状態で納品してもらい、koroで巻き巻き作業・タグ付けをして販売しています。
この巻き巻き作業、今のところきなせ家さんでは難しいとのことで、下の写真のような状態で納品をしてもらっています。

いつか、その作業までお願いできるといいなぁと思いつつ、一度にたくさんのお願いは無理なので、徐々に、他の施設さんにもお願いできたらなぁと考えて1年以上経ちました。
結局自分たちでやってます。(笑)恊働ですね。



私達が求めていくことと、施設側のキャパ。
この二つには大きな溝があります。間違いなくあります。
この2年間、その溝の深さにずいぶん頭を使ってきました。

福祉施設にとってお金になるだけが全てではない。
でも、それを言ってしまったら、福祉の枠を越えて人と交わっていけない。
しかし、ほんとうに、福祉の枠を越えて人と交わる、商売する必要があるのでしょうか?
波風立てないように、立てないように、それはどうして?
福祉施設がものを作って売る意味ってなんだろう?

そんなことをずっと堂々巡りで考えているのですが、思いがけず、初心を思い出す出来事がありました。

きなせ家さんは2階立ての建物で、2階はいつも糸紐を買いに行く場所。主に私達は2階にしか出入りしておらず、1階の職員さんや利用者さんには挨拶する程度。

わかり易く言うと、1階の利用者さんは障害が重いというか、作業がたくさんうまくできない方々、2階の利用者さんはある程度作業をこなすことが出来る方々がいます。

玄関が1階にあるので、いつも笑顔で手を振ってくれる利用者さんに挨拶をして出ようとしたとき、職員さんが何か作っているものを持ってきて、「見てもらっていいですか?」と糸で作ったボンボンを木の枝にぶら下げたオーナメントを見せてくれました。

そして、素材についてや、バランスについてなど、言えることはほんの少ししかありません。だけど、ささやかなその会話の中から、職員さんたちは考えて汲み取って、「それならみんなでできるかもしれない」と、利用者さんとどう関わって商品をつくるかを考えて行く。

それだけで嬉しかった。

ヘアゴムにしたり、その活用方法を考えているとのこと。
「とにかく巻くことはできるんです」と。切り揃えるのは職員さんだという。
よかったらどうぞ!とふたつぼんぼんをいただいちゃいました。



そして、このビーズ。
「とにかく通すことは出来るんです」と。加工は職員さんの仕事。
とても小さな小さなビーズがたくさん通されています。




色紙をたくさんたくさん丸めて、絵を作っていたりもします。
これが日中の作業。仕事です。
来る度に季節によって変わっていきます。
この丸める作業をしていた利用者さん、いい顔していたなぁ。



なんにもできないわけじゃない。
ただ、なにをしたらいいのか。
どう活かしたらいいのか。

そう、こういう作業能力を「すくいあげたい」と思ったんだった。
今日声をかけてくれた職員さんだって、「もっと良くするにはどうしたらいいのか」とか「これでいいとは思っていない」と思うから、なんとなく出入りしている私達を気にかけてくれていた。そして、声をかけてくれた。

アドリブでいいアイディアも思いつかなかった私に、笑顔で「ありがとうございます!」と言ってくれた職員さん。恐縮だ。

ほんの10分もないくらいの時間の立ち話的な感じ。
だけど、こういう「ちょっと聞いて」ということが現場の職員さんのやる気を少しでもすくうことになるのかもしれない。

救うのではない。
手のひらをつかって水をすくうように、現場に生まれたやる気やアイディアが流れていかないように「すくう」のだ。
そしてすくったそれを、誰かに「ほら、みて!」と言いたい。
で、「お!いいね」と言ってもらいたい。
そのために、よくみえる方法を考える。
それは、光の加減かもしれないし、状況かもしれない。


そういう仕事がしたかった。


思い出せてよかった。
今日のぼんぼんやビーズのことは「なにか思いついたら連絡します」と言って帰ってきた。無期限の宿題。


ちょっと前に、「コトノネ」という雑誌の編集長さんにお会いしたとき、

様々な話の中で、

「施設さんとの会話の中ですぐに答えが出せないときは宿題にして帰ってくる。
もちろんそこにはコーディネータ料は発生しない。だけど、考える。」と言った私達は、

「そこで金貰えんのに、なんで、そんな金にならんことを請け負うんや?」と聞かれて、

ちゃんと答えられなかった。


私達が施設側に宿題の答を無料で渡したことが、違う所からきちんと帰ってくる方法を考えればよい。

線でしかなかったイメージが、少し変形して円になりつつある。



(小林)